SSブログ

ダリ回顧展 [06展覧会感想]

上野の森美術館で開催中の「生誕100年記念 ダリ回顧展」を観に行きました。この展覧会は20世紀を代表する画家サルバトール・ダリの生誕100年を記念して、スペインとアメリカの2大ダリ・コレクションから、日本初公開作品を含む油彩画約60点の他、貴重な初期のドローイングや写真なども展示し、初期から最晩年まで巨匠の足跡をたどるものだそうです。

~展示構成~
ダリと家族、ダリとシュールレアリスム、ダリとカタルーニャ、ダリと偏執狂的批判的方法、ダリの晩年

まずは《魔女のサルダーナ》という初期の水彩画。優しくもあり恐くもありそれでいて幻想的。とても不思議。サルダーナとは輪を描いて踊る舞踏の一種でカタルーニャ地方特有の踊りだそうだ。プラド美術館展のゴヤ《魔女の飛翔》を思い出した。でもゴヤのような強烈な恐怖感は感じない。水彩の濃淡による優しさやクルクルと回るような動きはどちらかというとマティスの《ダンス》を連想させる。
《自画像(フィゲラス)》はとても冷たい目をしている。冷静に自身と対峙しているよう。アカデミーに入学を許可された年に描かれたものだそうで、キリッとしたその表情には画家になるための決意を強く感じる。レンブラントを意識しているそうです。色使いといい、角度といい、なんかかっこいいぜ!!
《ラス・クレウス塔から見たカダケス》はキュビスムっぽい作品。茶系の落ち着いた色合いのキュビスムというと、ピカソの作品を思い起こさせる。建物や山は単純化されているもののしっかりと描かれており、観ていて心地よい。哀愁が漂うというかチョット寂しい感じ。初期の作品にもかかわらず、既にダリ特有の寂しさ・冷たさが垣間見える。《静物》もいいね~(^o^)丿図録の解説によると「~数少ないキュビスムに近い作品のうちの1点であり、絶え間ない実験的創造の時期に特有の作品である」とのこと。滅多にお目にかかれない貴重な作品かも。。。

《妹の肖像》「妹アナ・マリアの優れた肖像であり、1920年代に描かれた唯一の肖像画」だそうだ。無駄な(遊びの)線が一切ない、きっちりとした、繊細な感じ。構図、肌のグラデーション、完璧主義という感じがして、じっと見ていると肩が凝る。見応えのある素晴らしい作品なんですがね・・・

写実的静物画のお手本のよう。食べたいとは思わないけど・・・

《パン籠》は写実的でもの凄い作品、感動しました~(^o^)丿作品の前からなかなか動くことが出来ませんでした!!でも、チョットだけ違和感が理由は不明帰宅後、図録とにらめっこしてみる。。。Σ(ノ°▽°)ノハウッ!パンの断面が滑らかすぎる!?(図録だから???)チョットだけざらざらした感じはあるような気もしますが、リンゴ 梨の断面のような感じで、バターを塗ったように滑らか。パンならもっと気泡がポチポチとあるはず・・・ついでにパンの表面も滑らかすぎるかな、もっとガサガサしてないと。。。なんか粗探ししているみたいで嫌だな~(^_^;)では、印象深かった所をいくつか。まずはバックの黒、格好いいです。パン籠はもちろん、クロスの青みがかった白さが引き立ちますね!!そのパンの入っている籠も完璧といっていいほどの写実で見応え十分♪しかも空間に歪みが一切感じられません。セザンヌの多角的視点から捕らえた空間構成も面白いですけれど、こういう完璧な空間構成も面白いですね。

《器官と手》は青色が印象的な作品。青色好きにはたまらんな~(^¬^)しかし描かれているものは複雑で意味深・・・《早春の日々》《手(良心の呵責)》もほぼ同じ印象。青の深みはかなり異なるが。「ダリはシュールレアリストとして、グループのメンバーと同じく、官僚を毛嫌いしていた」そうだ。《平均的官僚》「ここでダリは典型的な官僚を、中身が空っぽの頭を持った者として、空の頭蓋のなかに貝を詰めて描いた・・・単に官僚に対する攻撃というだけでなく、自分の父親に対する特定の非難でもある。」とのこと。抑圧の象徴としての父親を描いた初期のものだそうで、父親に対する反発、非難の意味もあるそうだ。内容はとても深い・・・この作品は色の変化が見事なので、そちらのほうも必見。

《子供-女の記憶》大きなパレットようなものがなかなか可愛く、子供の笑顔のように見える。とても深く難しい内容が描かれているが、この笑顔!?がその堅苦しさを和ませてくれるように感じました。《柔らかな三美神のいる神秘的な砂浜》は優しさや温もりが感じられる。色合いも綺麗でとても面白かった。見応え十分。描かれているものはとても複雑だが、これは結構好きかも。

《皿のない皿の上の卵》の第一印象は衝撃的でした・・・図録の解説には全く記載されていませんが、コレ、首吊ってるって。。。(;_ _;) シクシク(観かたが変!?)《ミレーの《晩鐘》の考古学的記憶の増大》はいろいろと複雑な意味合いがあるそうだが、それはともかく、懐かしさというか哀愁が漂う素敵な作品。山寺のカラスがカァーカァー鳴いている夕刻のような心地よい余韻がある。それに対し《家具栄養物の離乳》は心にぽっかりと穴が開いたむなしさや虚脱感が強く、なんだか切ないなぁ。。。支えが必要なところが辛く寂しい・・・《愛情を表す2切れのパン》は崩れ去るというか風化するという感じで寂しい。 

《夜のメクラグモ……希望!》ドロ~ッととろけてグニャグニャの、私が今までダリの印象として持っていたものにとても近い。いかにもダリっていう感じのおどろおどろしさいっぱいの作品。こういう内容にこの色合いは苦手。おっ、《サモトラケのニケ》(ルーヴル美術館蔵)があるねぇ。。。《焼いたベーコンのある自画像》は宇宙人のようだ。《新人類の誕生を見つめる地政学の子供》はエイリアン(地底人?)が卵から出てくるみたい。。。(怖)チラシの表を飾る、《記憶の固執の崩壊》はラピュタのお城が崩れ去る時を思い出した。こうやって見ると、とろける時計もなんだか辛いなぁ~。ぐにゃりととろける時計は結構好きなんですけどねぇ・・・《記憶の固執》(ニューヨーク近代美術館蔵)と並べて観たかった(図録に載っています)。《生きている静物(静物-速い動き)》は宇宙のように重力を無視してふわふわと浮いていたり、よくわからないけど面白く、とても魅力的。青色が綺麗で吸い込まれるような不思議な構図は《記憶の固執の崩壊》にも通じるものがある。

《自らの栄光の中でマルガリータ王女を描くベラスケス》は浮かび上がるマルガリータちゃんがメイン・・・ではなさそう。ビミョー・・・(^_^;)「・・・『王女』は中央のパネルに半透明で描かれ、原子の強力なエネルギー源と、ほとばしる光のまぶしい『反物質』の粒子の配列で構成・・・芸術と科学における現代の発展にともなうベラスケスの《マルガリータ王女》に対するダリの歴史的修正主義は、絵画の黄金時代と原子核時代の間の芸術家の位置を具体的に表現している。」とのこと。古き良き時代に思いを馳せているのか、ベラスケスを揶揄しているのか・・・ダブルイメージというより二枚重ね合わせ!?(図録必見!)

《世界教会会議》は229.7×254.0cmと大きな作品。自信に満ちたダリの表情と天使のようなガラは見応えあり。いろいろな場面が描かれているのでどこから見てよいのやら・・・色合いが綺麗で神秘的。これだけの内容とこのサイズ、巧みな色使いでうまくまとめ上げているところは素晴らしいとしかいいようがない。《太陽の後ろはるか遠くに全裸で出現するガラを見るために雲の形をした金羊毛を開けるダリの手(クロード・ロラン讃/立体鏡作品)》は、なんかよくわからないけど面白い。

寂しいねぇ~。。。初期から最晩年まで、ダリの作品に共通するというか、一貫しているイメージです。空気が澄んでいて、ひんやりとしている。常に心の中に空しさというか寂しさを感じる。写実的にきっちりと描かれているため、そう感じるのかもしれません。転換期にあたるような重要な作品が多く見応え十分。でも、ダリについて詳しくないので、その点と点をうまく結びつけることが出来ず、飛び石状態今までにダリの作品を多数鑑賞している方にとってはとても有意義な展覧会かもしれませんが、ダリ初心者にはちっと難しいなぁ~
そもそも描いたダリ本人が理解できていないものを、どう理解しろというんだ???理解するものではなく心で感じろということか!?(^_^;)これだからシュールは難しい・・・・・
ショート・フィルムの上映がありましたが、前評判で「怖い」とか、「気持ち悪い」と聞いていたので、見ませんでした。だって、目玉を・・・!Σ( ̄口 ̄;;
会場の前半(いわゆる混雑ゾーン)の作品は小さいものが多く、じっくりと鑑賞するのが厳しい状況ですし、またデッサンの部屋も大混雑、大きな作品は頭越し・・・図録の購入をお勧めします。図録は丁寧な解説に綺麗な写真、遊び心いっぱいのアリンコ、こだわりのカバーの裏側等、見応え十分どうも記憶にない作品が多数あるので(記憶の崩壊!?)、しっかりと復習してからもう一度観に行こうかと思っています。

  • 図録:2300円
  • 音声ガイド:500円

上野の森美術館(http://www.ueno-mori.org/

ダリ回顧展公式サイト(http://www.dali2006.jp/

 

 表裏


nice!(4)  コメント(12)  トラックバック(9) 
共通テーマ:アート

nice! 4

コメント 12

くみみん

おはようございます。
まだまだ混雑しているんですね(-_-)
個人展なのでどうかなと思っていたんですが、TVの集客力と最近の美術鑑賞ブームかなあ?
上野まで行って混んでいたらにゃんこ探しの散歩してしまいそう=^-^=
シュールの世界は絵画でも小説でも難しいですよね。
by くみみん (2006-12-14 08:33) 

いっぷく

丁寧な説明付きで絵の題から想像できる絵がたくさんあります。
かなり重要な作品がきているので驚いています。

りゅうさんが感動されたパン籠はダリの写実の力量が見事に見る側に伝わりますね。あんなに緻密に描く作品が多いのに多作なのは驚くばかりです。
努力だけでは到底到達できない一線を超えている画家だと思います。
by いっぷく (2006-12-14 22:48) 

ミカチ

私もダリの絵はフィゲラスでは見ているのですが,それ以外はあまり記憶に残ってません。『あ~、またこんな感じね』なんて簡単に見てた気がします。
なぜあそこまでシュールを写実で描くのか不思議ですよね。インパクトはとても強いから、それがいいのかもしれませんが^^;
ダリの住んでいたカダケスは大好きな場所なので、たっぷりトラックバックで紹介してみたいと思います。ちょっとお待ちくださいね。
by ミカチ (2006-12-15 01:58) 

りゅう

>kumiminさん、nice!&コメントありがとうございます(^o^)丿
混んでました~ははは。
ベルギー&仏像が終了し、ターゲットはエルミタージュとダリに絞られました。
ともに会期末、これからさらに混雑するでしょう。。。
ダリは11月下旬に30万人突破、エルミタージュも12月1日に20万人突破だそうです。ちなみに、ベルギー展は約25万人(248,298人)、仏像展は約33万5千人(335,489人)だったそうです。
4展とも鑑賞している自分がなんだかミーハーに思えてきました~ははははは

>いっぷくさん、nice!&コメントありがとうございます(^o^)丿
ダリについて詳しくないのでよくわからなかったのですが、ここに記載しきれなかった作品のなかにもどうやら凄い作品が多数あったようです。
大回顧展に相応しい力の入った展覧会、鑑賞者も気合が入っているようでした。『ダリってこんなに人気があったのかー!Σ( ̄□ ̄;)』これが私の正直な感想です。。。(^_^;)

>ミカチさん、nice!&コメントありがとうございます(^o^)丿
シュールの写実って、生々しいような、非現実的なような、何ともいえないとても不思議な感覚ですね。混雑していてあまりじっくりと観ることが出来ませんでした。それが良かったのか悪かったのか。。。もっとダリの世界にどっぷりと浸りたいような、これ以上ダリに洗脳されると精神的に厳しいような・・・(^_^;)
ダリのデッサン力&色彩は凄かったです。極めているといってもいいくらい。これでは普通に風景画や肖像画を描いていてもすぐに飽きてしまうでしょうね。新たな絵画世界・表現を探求・追求するのもわかるような気がします。
ありがとうございます、トラックバック楽しみです♪o(*^^*)oわくわく
by りゅう (2006-12-15 19:28) 

shamon

やっと行ってこられたんですね。レビュー楽しく拝見いたしました。

「パン籠」、実はこれ隠れた傑作ではないかと思います^^。
by shamon (2006-12-16 20:17) 

りゅう

>shamonさん、TB&コメントありがとうございます(^o^)丿
鑑賞は12月1日でしたが遅くなってしまいました~(^_^;)
毎日のように図録を開いて、ダリの世界に浸っております。。。
「パン籠」、やっぱり傑作ですよね~見応えがあります♪
by りゅう (2006-12-17 17:53) 

流星☆彡

あら~!ショートフィルムは ご覧に ならなかったんですか~?!
“気持ち悪さ”も 含めて、『ダリ』の魅力だと思ふんですけど ね。(*_*A)
(↑とか よく分からないのに 話題に したがる…悪しき日本人の典型!?^^; )
『パン籠』の “パンの断面”の お話☆面白く読ませていただきました♪
『魔女のサルダーナ』から 『魔女の飛翔』(ゴヤ)を 思い出された…という
感想にも、「なるへそ♪」と ばかりに 資料を見返してしまいましたわ!
(↑誰かに言われなければ、絶対 連想しなかっただろうな。。。(~_~;)ゞ )
この記事をPrintOutして 再訪したい気分デス。がっ!今後は 冬休みも
相まって、より一層 混雑するでしょうね。。。とほほ
by 流星☆彡 (2006-12-17 20:07) 

アイレ

りゅうさん、こんばんは
TBをいただいていたのに、お返しが遅くなってすみません。
りゅうさんが感じられた寂しさはダリの深層心理なのではないでしょうか?
絵の中であれだけガラを賛辞していても、2人の関係は冷えていたものになっていたようですし…
父親との確執もそうですし、絵に込められた意味を深く知れば知るほど、
ダリの孤独が伝わってくるようでした。
by アイレ (2006-12-17 20:23) 

りゅう

>流星☆彡さん、こんばんは。nice!&コメントありがとうございます(^o^)丿
この後、ベルギー展を経て東博の仏像展を鑑賞しました。
当初からこの日のメインは国宝のせくすぃ~な観音さま(笑)でしたので、
何のためらいも無く、さくっととばしました♪
さすがに弥勒さまや薬師如来さまにお会いする前に見るものでは。。。(^_^;)
招待券がありますので、もう一度観に行こうかな~なんて(^_^)/

>アイレさん、こんばんは。TB&コメントありがとうございます(^o^)丿
やはりダリの心の中には常に寂しさが深く影を落としていたのでしょうか。
自らの内面をここまで表現力豊かに反映できる画家は稀ではないでしょうか、ずば抜けたデッサン力と写実がなせる業かもしれませんね。
シュールの画家の中でもダリの表現力は別格のように思えてきました。
それにしても、青色の使い方が巧みでしたね~引き込まれました!!(^_^)

>ミカチさん、こんばんは。TBありがとうございます(^o^)丿
by りゅう (2006-12-18 19:47) 

りゅう

>ミカチさん、こんばんは。TBありがとうございますv(≧∇≦)v イェェ~イ♪
by りゅう (2006-12-22 23:03) 

Tak

こんにちは。
ここのところ見逃してはいけない展覧会の
滑り込み鑑賞が増えています。

これも行っておいてホント良かったです。
by Tak (2006-12-24 15:16) 

りゅう

>Takさん、こんばんは。TB&コメントありがとうございます(^o^)丿
当初、鑑賞の予定はなく、招待券が当たったので観に行きましたが、
とても新鮮でした、行って良かったです。ヾ( ̄ー ̄)ゞ
初期の作品が充実していましたね、ダリのイメージが大きく変わりました。
謎が多く、毎日のように図録を開いています♪
by りゅう (2006-12-24 22:08) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 9

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。