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絵画の中の植物を知る [アート]

以前、新聞の書評欄に掲載されていた本です。

図説 聖人と花

図説 聖人と花

  • 作者: グラディス テイラー
  • 出版社/メーカー: 八坂書房
  • 発売日: 2013/02
  • メディア: 単行本


「ギリシャの女神ヴィーナスの薔薇は、いかにして聖母マリアの花になったのか?古代より人々は樹木を崇拝し、身近な草花を神に捧げて礼拝していた。異教の地にキリスト教がもたらされた時、聖なる草木は聖人たちを彩るものへと役目を代えた…。受難の花(トケイソウ)、聖母の涙(スズラン)、聖ヨセフの杖(キョウチクトウ)、天使の植物(アンゼリカ)など、78聖人と160種の植物を取り上げ、聖人と花にまつわる奇跡の物語を綴る。―聖人と花の名画、植物の小図鑑など、図版多数。 」

目次
はじめに
第1章 宗教と花
第2章 主イエス・キリストの花
第3章 聖人の背景
第4章 聖母マリアの花
第5章 聖人とそのエンブレム
第6章 オランダの祝歌
第7章 庭師の聖人
第8章 イギリスの昔の花暦
第9章 春の聖人
第10章 夏の嬰人
第11章 秋の聖人
第12章 冬の聖人
第13章 死後の聖人
第14章 ノースゲイ
植物名索引 植物名一覧 聖人名索引 主な邦訳参考文献 訳者あとがき



とても興味深く面白い本だった。
そこに描かれている人物が誰なのか、その植物はどのような意味を持つものなのか、季節は何時なのか。植物そのものを主題としたボタニカルアートにはあまり興味がないのだが、肖像画、宗教画、風景画の中にある種の象徴的意味合いを持ち意図的に描かれる植物には興味がある。

図版は1ページまるまる使用、又はページの2/3に全体図で下1/3に拡大図。
また、本文の下1/3で植物の線画、多くても3つなのでそれほど小さくはなく、見やすい。

著者はイギリス人、当然、本のなかに出てくる植物もイギリスのもの。
イギリスでは身近な植物でも、日本でなじみのないものもある。
同じ品種に属していても見た目は異なり、全然わからないものもある。
また、名前が似ていても日本のものとは見た目が異なるものも。

巻末の植物名一覧のところに植物の写真が掲載されている。
各ページに8つ、16ページにわたり、計128。
ちょっとした図鑑。
やはり写真で見るとわかりやすい♪


「 『ナルド』は、マグダラのマリアがイエスの足に塗った貴重な香油、めったにないもっとも高価な香油だった。はるかなヒマラヤの高地に育つ植物カンショウの根から調製したものである。蒸留の費用は計算に入れなくとも、そのような遠いところから運ばれるというだけで、香油は高価だっただろう。これはおそらくマグダラのマリアの一番の宝物で、何年間もアラバスターの箱にしまわれていたものにちがいない。(P25~27)」

マグダラのマリアの香油を塗る場面や、事物である香油壷は、絵画の中でよく描かれる。
しかし、その香油がどのようなものか考えたことは一度もなかった。恥ずかしながら。
そうだよなぁ、特別な場面で使われるものである以上、高級なもの、もっとも大事にしているものだよなぁ。


「 『受難の花 Passion Flower』、すなわちトケイソウはペルーの野草である。17世紀にイエズス会の宣教師がヨーロッパ人として最初にこの花を見つけた。宣教師はこの花を『受難の花』と名付け、その各々の部分によってキリストの受難をつぶさに伝えた。素朴な人々の心には、磔刑の物語がしっかりと刻み込まれたことだろう。

 5つの切れ込みのある葉は、キリストの迫害者の手を象徴している。莢は酢に浸された海綿で、巻きひげはイエスを苦しめた鞭や縄。
 5枚の萼片と5枚の花弁は10人の弟子を表わす。師たるイエスを知らないといったペトロと師を裏切ったユダは除かれる。
 花の中央にある子房柱はキリストがつながれて鞭打たれた柱を表わす。
 3本の花柱は、キリストを打ちつけた3本の釘。
 5つの葯は、5ヵ所の傷。
 花糸はイバラの冠
 コロナのような糸状の副花冠は聖なるキリストの光背
 青い色は天。
 そして3日という花の命は、復活するまでの時間を表わす。
 ※日本で栽培される品種には1日で萎むものが多いが、トケイソウ属は熱帯アメリカを中心に約500種が分布するため、開花習性が異なるものもあるのかも知れない。 (P33~34)」


パッションフルーツ


「 今日簡単に『Lady's~』と呼ばれている花は、以前には『Our Lady's(聖母マリアの)~』と呼ばれていた。宗教改革で清教徒が、これらのすばらしい賛辞を『教皇のたわごと』として笑いものにした後、その非常に多くが失われてしまった。花には新しい名前が与えられ、古い言い伝えは忘れ去られたのである。たとえばブラック・ブリオニー(Black Bryony)。生垣にかかる真紅のベリーが連なるさまが数珠のように見えるので、『ロザリオ Rosaries』として知られていたが、清教徒はその名を『猫のロザリオ Cats' Rosaries』に変えてしまった。(P46~47)」


「 聖ヨセフの花は少ない。ヨセフは、白ユリを聖母マリアと分かち合うことがある。この花は『聖ヨセフのユリ St.Joseph's Lily』とも呼ばれているからだ。白いカンパヌラが『聖ヨセフの小さな杖 St.Joseph's Little Staff』、セイヨウキョウチクトウは『聖ヨセフの杖 St.Joseph's Staff』として知られている。セイヨウキョウチクトウに関しては、次のような伝説がある。天使-ガブリエルだろうか-が、ヨセフこそがマリアの夫となる者だと告げるまで、ヨセフが持っていたのはふつうの杖だった。天使のお告げを聞いて、ヨセフが喜びに包まれたので、握っていた杖に花が咲いたのである。(P61)」

キョウチクトウ01
キョウチクトウ02
昨年、国立西洋美術館の前庭で撮影したキョウチクトウ。
名前がわからないままに撮ったけど、くみみんさんに教えていただきました。


ベルナルディーノ・ルイーニ《聖カタリナ》(エルミタージュ美術館蔵)
ベルナルディーノ・ルイーニ《聖カタリナ》(エルミタージュ美術館蔵)
昨年の大エルミタージュ美術館展で鑑賞したベルナルディーノ・ルイーニの作品が掲載されていました。
図版解説には、「ルネサンス期ミラノの画家ルイーニの聖カタリナは、天国の恩恵と神の愛を表わすジャスミンの花を頭につけている。(P108)」と。
ちなみに展覧会の図録では、「髪には純潔の象徴であるジャスミンの花を挿し、(P192)」と一言で片づけている。


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