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シャガール展 [07展覧会感想]

上野の森美術館で開催されていた「生誕120年記念 色彩のファンタジー シャガール展 ~写真家イジスの撮ったシャガール~」を観に行きました。この展覧会はマルク・シャガールの生誕120年を記念して、シャガールのリトグラフの最高傑作ともいわれる《ダフニスとクロエ》や、シャガールの版画世界がより大きな広がりをみせた木版画《ポエム》、そして《聖書》《アラビアン・ナイトからの四つの物語》《サーカス》これら5つのシリーズ合計222点と、愛と生命への賛歌を奔放な描線で幻想的に描いたシャガールの絵画17点を一堂に集め紹介するとともに、知られざるシャガールの魅力に迫るべく、交流のあった写真家イジスが優しい眼差しで撮影したシャガールの制作風景や素顔などの写真101点を合わせて公開するものだそうです。

~展示構成~
1.アラビアン・ナイトからの四つの物語 2.ポエム 3.ダフ二スとクロエ 4.聖書 5.イジス 6.サーカス

0.イジス (東京アカデミー蔵)
展示室に入ると、写真家イジスの撮影したシャガールのポートレートやアトリエの写真。「23 シャガールのポートレート」のほほ笑むシャガールがとてもいい顔をしている。凄く楽しそう。「38 カフェのテラスで」は格好よかった。アトリエの写真もとても興味深い。「25 ヴァンスのアトリエ」にはゴッホの郵便配達のひげのおじさんの絵(レプリカ)がピンで壁に飾ってある。
絵画:《白い花束》

1.アラビアン・ナイトからの四つの物語 (高知県立美術館蔵)
『アラビアン・ナイト』から「カマル・アル・ザマンと宝石商の妻」「海から生まれたユルナールとその息子ペルシア王バドル・バシム」「漁師アブズラーと海の人アブズラー」「黒檀の馬の物語」の4話を選び、英文テキストに13枚の挿絵をつけたもので、この版画集はシャガール初めての本格的カラーリトグラフだそうだ。12枚組として90部制作されたが非売品11部と特装版10部に13番目の作品「シャハラザードの夜」の場面が収められており、今回の展示はその特装版とのこと。挿絵ということで作品名が解説を兼ねているようだ。特に印象的だったの13番目の作品
「3 それから彼は彼女をしっかりと抱きしめながら夜を過ごした・・・・・・(「カマル・アル・ザマンと宝石商の妻」より)」、「6 そこで彼女は木から下り、彼に近づくと胸に抱きしめた・・・・・・(「海から生まれたユルナールとその息子ペルシア王バドル・バシム」より)」、「7 それから老女はイクリットの背にまたがり娘を後ろに乗せると、イクリットは彼女たちをつれて飛び立った・・・・・・(「海から生まれたユルナールとその息子ペルシア王バドル・バシム」より)」、「13 それから王は心の中で考えた。「アラーの神に誓って、私は彼女の次の話を聞き終わるまで彼女を殺すまいと。そこで彼らは夜がついに明けるまで、その夜の残りを抱き合って眠ったのだった・・・・・・(「シャハラザードの夜」より)」

2.ポエム:24枚 (山形美術館蔵)
シャガールの詩31点に挿絵24枚を組み合わせた版画集だそうで、24枚の版画は138枚の版木を要し、のべ41,000以上の刷り工程を繰り返し、2年の歳月をかけて刷られたとのこと。混雑対策のためか展示室のスペースの都合かはわからないが、展示室は挿絵のみで詩はいっさい掲示されていなかった。図録には詩(日本語訳)が全て掲載されているが、せめていくつかの作品だけでも紹介してくれたらいいのに。サンプル図録が置かれていたので休憩しながら詩をチェックすることはできたが。。。印象深い作品は「9」「12」「21」「24」あたりかな。
絵画:《わが村(夕べの通り)》《毛皮襟の女》《花束を持つ少女》

3.ダフニスとクロエ
捨て子として牧人ラモーンに育てられたダフニスと同じく捨て子として牧人ドリュアスに育てられたクロエの恋の物語。ダフニスの生みの親はディオニュソファーネス、クロエの生みの親はメガクレース、いずれも大富豪。この作品はリトグラフとしては珍しく20色以上もの色彩が使用されており、完成までに3年以上かかったそうだ。
「1 扉絵」、「2 ラモーンによるダフニスの発見」、「3 ドリュアスによるクロエの発見」、「8 クロエの判断」、「14 ニンフたちの洞窟」、「15 葡萄の収穫」、「17 フィレータースの教え」、「28 春」、「31 夏の季節」、「33 クロエ」、「35 バッカス神と神殿と物語」、「38 ディオニュソファーネスの到着」、「41 ニンフたちの洞窟での婚礼の祝宴」
絵画:《たそがれ》《花束のプレゼント》《燃える花束》
イジスの「45 バレエ「ダフニスとクロエ」の舞台美術制作」が印象的。水彩とパステルで描かれた《花束のプレゼント》
は薄い青を主体とする作品。牛の頭をした人物が椅子に浅く座っている。この人物の黄色い上着がアクセントとなり、いい味を出している。

4.聖書 (高知県立美術館蔵)
ユダヤ人にとって聖書とは『旧約聖書』をさし、天地創造に始まり、ノア、アブラハム、モーセ、ヨシュアを経てダヴィデ王、ソロモン王の繁栄の時代を築くイスラエル民族の歴史、そして預言者の物語だそうだ。1956年に完成したこの105点の銅版画は、手彩色を施されたカラー版が1958年に出版されたそうで、今回展示されているのはそのカラー版。銅版画が制作される前には一連のグワッシュが制作されたとのこと。
「13 イサクから祝福を受けるヤコブ」、「14 ヤコブのハシゴ」、「22 パロ(ファラオ)の夢」、「27 燃える柴」、「41 モーセの死」、「56 サムソンとデリラ」、「61 サウルとダヴィデ」、「80 シバの女王」、「88 エリアの見神」、「91 イザヤの見神」、「98 エルサレムへの恩寵」、「99 イザヤの祈り」、「100 エレミヤの召令」、「101 エルサレムの捕囚」 
絵画:《アルルカン》《花束の傍らで》《秘密》《おとずれ》
2階の展示室入り口にはステンドグラス制作風景の写真。「117 メッツ大聖堂のステンドグラス制作」が印象的。《アルルカン》はチラシの裏にある作品。でかくて迫力があり、なんだかロボットのよう。青色が綺麗で幻想的。よくみるとノートルダム大聖堂が描かれている。《花束の傍らで》は緑色の花瓶に大きな花束が飾られた綺麗な作品。白と緑で構成され透明感があり、スッキリとした軽い感じに仕上がっている。

5.イジス (東京アカデミー蔵)
本名はイスラエル・ビデルマン。シャガールは、イジスの1955年刊行の写真集『イスラエル』と1965年刊行の写真集『イジスのサーカス』で表紙と挿絵を手がけているそうだ。ともにロシア領だった町にユダヤ人として生まれ、戦争中にナチスの迫害に遭い、詩人の友人が多かったそうで、このような共通点が互いに親近感を抱かせたようだ。
今回展示されているのは、1958年のバレエ「ダフニスとクロエ」の美術・装飾場面(※3.「ダフニスとクロエ」の展示室)、同年のリトグラフの大家シャルル・ソルリエのいるムルロ版画工房での制作風景、1959年ヴァローリスの陶器工房の場面、1960年のハダッサ病院シナゴークのためのステンドグラス制作現場、1961年のメッツ聖堂のためのステンドグラス制作する場面、1963-64年のオペラ座天井画制作風景(唯一許された写真記録者)、1965年新イスラエル国家の議会用の3枚の大タピスリー制作現場、1966年のミューヨーク・メトロポリタン歌劇場の大壁画制作場面など。その他、散歩、カフェ、ヴァンスのアトリエ等で撮影したものもある。なお、イジスはこれらの写真をまとめて、1969年に『シャガールの世界』を出版。シャガールを写したカラー写真は、モノクローム写真を得意としたイジスにとって、唯一のカラー作品。
「62 陶工師ジョルジュ・ラミエとシャガール」、「72 天井画:ムソルグスキーセクション」、「78 妻ヴァヴァと」、「82 天井画:モーツァルトセクション制作」、「89 パリ・オペラ座の天井画全景」、「90 パリ・オペラ座の天井画を俯瞰する」、「94 天井画:チャイコフスキーセクション制作」、「95 天井画:ドビュッシーセクション制作」、「96 天井画:チャイコフスキーセクション制作」、「102 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場の大壁画制作:音楽の泉」、「103 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場の大壁画制作:音楽の勝利」、「104 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場の大壁画制作:音楽の勝利」、「105 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場の大壁画制作:音楽の勝利」、「106 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場の大壁画制作:音楽の泉」、「107 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場の大壁画制作:音楽の泉」、「108~113 素描中のシャガール」、「114 作品「我が人生」のキャンヴァスの前で」、「115 作品「我が人生」制作」、「119 天井画:アンドレ・マルローのポートレート」、「122 パレット」
絵画:《オペラ座の人々》《花嫁の回想》《回想》《花と動物》
パリ・オペラ座の天井画制作の写真は圧巻!!これだけでも小企画展ができそう。ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場の大壁画制作の写真も見応えあり。《オペラ座の人々》(ポーラ美術館蔵)の優しく切ない感じが素晴らしい!今回のお気に入りのひとつ。《回想》は右上が青、右下が赤、左上が緑、左下はオレンジに四分割されている。下半分に描かれているのは生まれ故郷のヴィテブスク、右上の青のセクションに描かれているのは、パリの街並み、エッフェル塔もある。左上の緑は結婚式をあげた教会だそうだ。シャガールの人生がそのまま凝縮されたような作品。《花と動物》の綺麗な青色も見応えあり。

6.サーカス:38枚 (高知県立美術館蔵)
この版画集は多色刷りリトグラフ23点、単色リトグラフ15点、シャガール自身のテキストからなるそうだ。会場には、38枚のリトグラフとともにシャガールのテキストもパネル展示されていた。やはり、単色より多色刷りのほうが見応えがある。印象深い作品は「1、2、4、22、30、31、36、38」あたりかな。
絵画:《パレード》《愛のサーカス》

シャガールはパリに出たての頃からピカソをつよく意識し、嫉妬心を隠さなかったそうだ。
ちなみにピカソは、1950年代にシャガールについて次のように評している。
「マティスがいなくなったら、色彩とは何かほんとうにわかっている画家はシャガールだけになってしまう。あの雄鶏やロバや空飛ぶヴァイオリン弾きや、ああいう民俗的なものには夢中になれないが、彼のカンヴァスはほんとうに描き込んである。手を抜いていない。ヴァンスで制作した最近の作品を見ると、光に対する感覚をそなえている画家は、ルノワール以来シャガールしかいないことがはっきりわかる。(図録P113)」

絵画はいずれも見応えのあるもので、各セクションに効果的に配置されていた。版画集はシリーズものをまとめて観ることが今まで無かったのでとても貴重な機会だった。写真もとても見応えのあるもので楽しかった。通常なら参考展示として2,3枚持ってくる程度でおわり。あるいは写真展として独立の展覧会が企画されるところ。そういう意味でもとても充実した展覧会。これだけの数の作品を展示替無しで全て観ることが出来るなんて予想していなかった!!v(≧∇≦)v イェェ~イ♪
『222+17+101+α= へろ へろへろ~ (;@_@)ノ 』
作品の説明がほとんど無くなんだかよくわからなかったので、2回り目はガイドツアーに参加して説明を受けながら鑑賞。ツアー終了後にリストにチェックを入れた作品を中心に3回目。すっごく疲れた・・・(T_T)版画集は前提となっているストーリーがわからないとかなり厳しいっすね・・・シャガールの作品は頭で理解するものではなく、感覚で捉えるべきもののように感じた。夜間開館時のため会場内は空いていて助かったけど、混雑してたらかなりキツイだろうな~なんて。。。もし詳細な解説が付されていたら・・・\(>o<)/ 
図録は1500円とお手ごろ価格だが、図版は小さく、作品解説も少ない。なんかビミョーーー(・_・;)表紙のデザインは黄、青、黒の3種類あったそうだが、会期末ということで、黄と黒しかなかった。3冊並べるとシャガール展のロゴが現れるそうだ。中身は同じなのに3冊買えってことか?ジロー (;¬ ¬)どうせなら、いくつかの作品をピックアップした700円程度のガイドブックと詳細な解説を付した2500円程度のものの2種類を用意してくれたらいいのに。。。

  • 図録:1500円
  • 音声ガイド:500円

上野の森美術館(http://www.ueno-mori.org/
http://www.ueno-mori.org/special/2007_chagall/index.html

公式サイト(http://special.enjoytokyo.jp/TK/070901chagall.html

チラシ 

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