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ギュスターヴ・モロー展 [05展覧会感想]

Bunkamuraで開催されているギュスターヴ・モロー展を観にいきました。この展覧会は、「パリの宝石」とも讃えられるフランス国立ギュスターヴ・モロー美術館の改装に伴い、モロー美術館の珠玉の作品を一堂に会し紹介するもので、「モロー美術館所蔵の作品のみによって、あの幻想的な、象徴的な、しかも宝石のごとく美しいモロー芸術の創作の秘密に触れんとするもの」だそうです。

~展示構成~

「プロローグ」「神々の世界」「英雄たちの世界」「詩人たちの世界」「魅惑の女たち、キマイラたち」「サロメ」「聖書の世界」「エピローグ」

《ユピテルとセメレ》まず、《24歳の自画像》というとても穏やかな表情が印象的な自画像。モロー唯一の油彩で完成された自画像で、美術館の準備のため、後にモロー自身によって加筆された可能性があるそうです。《ユピテルとセメレ》は画家が到達した独自の神話解釈を表す重要な作品だそうで、この作品は構想画や習作も並べて展示されていました。特に構想画は、それ自体ではその良さがイマイチよくわからなかったものの、完成作品とともに比較しながら観るととても面白く、絵を描いている人にとってはとても興味深い展示構成だったのではないでしょうか。《トロイアの城壁に立つヘレネ》はサロンに出品された《ヘレネ》のための習作と考えられているそうで、《ヘレネ》の構成画とともに展示されていました。ここでは油彩2点、水彩の1点、構想画1点が展示されていましたが、いずれも異なる色彩によるものでそこから受ける印象は全く異なり、完成作品である《ヘレネ》(所蔵先不明)を観ることが出来ないというのはとても残念・・・・・

《ヘラクレスとレルネのヒュドラ》《ヘラクレスとレルネのヒュドラ》は、ヘラクレスがヤマタノオロチヒュドラを退治する場面を描いたもので、油彩3点、水彩1点(後期)と鉛筆等による習作多数。解説によると「レルネのヒュドラ」はいわゆるヘラクレスの十二功業のうち第二の功業で、「ヘラクレスはレルネの沼地に棲む多頭(一説には七つ頭)の水蛇ヒュドラを退治するよう命じられた。ヘラクレスが頭のひとつを切り落とすと、そこから頭が二つ生えてくる。そこでヘラクレスは切り落とした箇所を仲間に松明で焼かせて、新しい頭が生えてこないようにした。最後に残ったひとつの頭は不死身だったので、ヘラクレスはこれを切り落とし、岩の下に埋めた。そのあと怪物の胆汁に自分の矢をひたして毒矢をつくった」とのこと。まず、油彩の一番大きいものは、サロン出品作(アート・インスティチュート・オブ・シカゴ蔵)より一回り小さく、出品作の習作のひとつと考えられているそうだ。これが習作?と言いたくなるほどその大きなキャンバスには丹念に描き込まれており、とても完成度が高い。次に、夕日をバックにした油彩画は、逆光に浮かびあがる?(そびえる?)ヒュドラがトーテムポール(orサボテン)にみえた・・・(^_^;)さらに、水彩画も完成度の高いものでした。「モロー美術館には数多くの関連作品が残されており、久々のサロン参加にあたり、この作品をモローが周到に準備していたさまがうかがわれる」とのこと。出品作も観たかった・・・

《インドの詩人》《デイアネイラ(秋)》のための習作は、方眼引きのもの(後期)やイタリア石のものがとても素晴らしかった。特にイタリア石のものはそのまま版画にしたいくらい!《インドの詩人》(後期)は水盤の脇で語らう馬上の吟遊詩人と少女を描いた作品。この展覧会では唯一、優しく温かみのある現実味を帯びたもので、穏やかな気持ちになれる。水彩の35×39cmと小さいもので、軽く流している人と覗き込むようにジックリと鑑賞している人と見事に分かれていたが、隠れた名品かも。《夕べの声》《夕べの声》(後期)は鮮やかな色彩と幻想的な世界観がとても素晴らしいもの。「風景は大胆に省略されつつ、彼方の水平線にまで続く水の広がりを感じさせる。その中に、鮮やかな色と細やかな線で描きこまれた天使たちの姿が浮かび上がる。中央の羽の青と衣の赤の対比が、ひときわ印象的だ。きらびやかな衣装を身にまとい、楽器を携えた奏楽の天使たち。その頭上に一段と明るく輝く星は、宵の明星だろう。天使たちは静かな夕べの到来を、詩情豊かに告げている」とのこと。こちらは、皆さんしっかりと鑑賞しているようでした。《サッフォーの死》という油彩の作品は、サッフォーが崖から飛び降りる場面を描いたもので、サッフォーの衣の部分の絵の具が厚塗りでとてもデコボコ。そのため、展示室の照明が反射してキラキラと光輝いているようにみえ、とても綺麗!!

今回最も注目していた作品、《一角獣》 《出現》

《一角獣》《一角獣》《一角獣》はいずれも繊細で見応えのあるもの。特にチラシの表にある作品は、モローの代表作のひとつで、細部まで丁寧に描き込まれており、透通るような明るい色彩はそれまでの作品とは明らかに異なるもの。特に女性の肌と一角獣に用いられている白色、遠景の湖や空の水色は画面全体を明るく輝かせ、またそれ自体が光り輝いているようで本当に凄かった!!また、衣等に書き込まれている線描の装飾文様もとても面白い。

《サロメ》次に、サロメ。まず、サロメの物語を表す三幅対のための習作(前期)が見れなかったことがとても悔やまれる。解説によると「・・・モローが最初この主題を、いくつかの連続する場面として描こうとしていたことがわかる。つまり、左から、牢獄におけるヨハネの斬首場面、中心には獄の脇にたたずむサロメ、右にヘロデの前で踊るサロメ。かつてはこのように考えられてきた。だが、私見に拠れば、これはむしろ二連画であって、左に、ヨハネの斬首とそれを待つサロメ、右に、ヘロデの前で踊るサロメ。このように考えるのが妥当であると思われる。そしてこの主題の逐次の展開のなかで、左翼の部分が国立西洋美術館所蔵の《牢獄のサロメ》として独立させられ、右翼の部分が後の数々のサロメ、もちろん今回の出品作《出現》がそのひとつの頂点となるわけだが・・・」ということ。《出現》《牢獄のサロメ》(国立西洋美術館蔵)はモロー作品の中で最も好きなものの一つ。その作品と有名な《出現》との関係を、歴史や宗教に疎い私はこの展覧会で初めて知った。ともに同じ女の人(サロメ)を題材にしているという程度の知識しかなかったので・・・(ちなみにサロンに出品された水彩の《出現》(ルーヴル美術館蔵、オルセー美術館寄託)はこの作品の習作だそうです。)今展覧会で《出現》を観ることが出来たのはとてもラッキーだったと思う。この《出現》は未完のまま放置され、晩年に加筆されたそうだ。建築の細部に明るい線描の装飾文様が施されたため、不思議に幻想的な画面となったとのこと。この線描の装飾文様がとても綺麗で思わず見惚れてしまう。しかし、音声ガイド等でも強調されていましたが、あくまでも中心はヨハネの首の出現ですヽ( ´ー)ノ フッ 習作はとても充実していて、《ヘロデの前で踊るサロメ》のための習作は、特に方眼引きのものにとても素晴らしいものが揃っていました。《死せる竪琴》のための習作も素晴らしく、いずれも見応えのあるものばかり!! 

《牢獄のサロメ》(国立西洋美術館蔵)《洗礼者ヨハネの斬首》《洗礼者ヨハネの斬首》

モロー美術館の《人類の生》という10枚の画面を豪華な金の額縁に収めた多翼祭壇画は移動が困難でこの展覧会に出品することが出来なかったため、完成作に近いサイズの別バージョンが全画面分出品されたとのこと。《贖い主キリスト》という半月形の作品は、3列3段に配置される9枚のパネルの最上部にあたるもの。すべてを救済する者としての《贖い主のキリスト》を描いたものだそうだ。かなり高い位置に展示されているためチョット観づらいものの、とても穏やかで素晴らしい。《人類の生》観たかったなぁ、残念。

結局、後期しか行くことが出来ず、前期のみの展示作品、特に 《ケンタウロスに運ばれる死せる詩人》を観ることが出来なかったのが残念・・・(図録で我慢)それにしてもすごい作品ばかりだ。特に《一角獣》《サロメ》といった代表的な作品とその習作。この展覧会の特徴でもある構想画や習作はとても充実していて、何度でも足を運びたくなる。

神話や宗教を題材にした作品というと、なんとなくイラストっぽくサラサラと描いたようなイメージがあった。すっきりとしていてなんかすぅーっとした感じに・・・
しか~し、全くそんなことは無く、何度も何度もデッサンを繰り返しその中から特に良かった線をトレースして・・・まさに厳選された一本の線が輪郭を形成する。その発展系ともいえるのが線描の装飾文様。人並みはずれたデッサン力と独特の色彩感覚、水彩のにじみや濁りも計算し尽くされたように思えてくる。習作の中でも注目すべきは人体や動物のスケッチ。骨格や筋肉(筋群)をとてもよく観察している。そして、その人や動物をそのまま描くのみならず、それらを巧みに組み合わせることにより、神話や伝説上の生き物を丁寧に描き上げている。まるで、実在の生き物のように。
上記の《ヘラクレスとレルネのヒュドラ》のように、作品解説や音声ガイド(図録の解説も)で神話や宗教のどのような場面について描いたものかを丁寧に説明しているため、神話や宗教について知らなくても違和感無く作品に入っていける親切な展覧会で、モロー美術館を持ってきたかのようでした。

  • 図録:2500円(税込)
  • 音声ガイド:500円(税込) 

Bunkamuraザ・ミュージアム(http://www.bunkamura.co.jp/)作品リストあり

公式HP(http://www.tokyo-np.co.jp/event/bi/moreau/)作品リスト&割引券あり

 

 表裏

島根展】 島根県立美術館:2005年3月19日~5月22日
【兵庫展】 兵庫県立美術館:2005年6月7日~7月31日
【東京展】 Bunkamuraザ・ミュージアム:2005年8月9日~10月23日


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コメント 12

mari

こんばんわ~、りゅうさん。
モローの耽美の世界にはまってきましたね。
帰りはぐったりですが、また見たい絵が多いですね。
お疲れ様。
by mari (2005-10-18 00:56) 

rossa

りゅうさ~ん☆こんにちは
いつもながら、ほんとに<臨場感あふれる>文章☆に感動です☆
もう一回展覧会に行ったみたいに、いろいろ思い出しました☆
モローのような個性的な作品は、こんな風にボリュームいっぱい☆で
鑑賞してこそその稀れな世界観が伝わってきますね☆うっとり☆ですね
by rossa (2005-10-18 15:24) 

りゅう

>mariさん、こんばんわ~♪
TB&コメントありがとうございます。
モローの展覧会は疲れますね!コンタクトが乾きまくりでした~((^へ^)v
少しずつ図録を読んで(眺めて)いるところですが、
読み進むほどにモローの耽美の世界に引き込まれていきます・・・
そして前期を逃したことに対する後悔がより一層・・・...( ;_ _)/|

>rossaさん、こんばんわ~♪
TB&コメントありがとうございます。
モロー作品は本当に個性的で、とても面白いですね。
幻想的でとても綺麗!!
まさに<魅せる>展覧会という感じでした~ (=^_^=) ヘヘヘ
図録を読みながら余韻に浸っているところですが、とても読み応えがありますね!!
チョット神話に詳しくなったかも…(^ー^)v
by りゅう (2005-10-18 22:43) 

Tak

こんにちは!
TB・コメントありがとうございます!!

西洋美術館のモローをこの展覧会を見て
何日か後に観に行きました。
小さな作品ですがすごく良い作品ですよね。

金曜日にまたモロー展行くつもりでいます。
by Tak (2005-10-19 07:56) 

りゅう

>Takさん、こんばんわ~
《牢獄のサロメ》良い作品ですね、そして1度しか観たことの無い《聖なる象》、
もし、国立西洋美術館の作品に出会わなかったら、モロー展に行くことは無かったのではないだろうかと思います。(^-^)v

先週の金曜日に鑑賞しましたが、夜7時を過ぎると急激に人が増えました!!
TB&コメントありがとうございました♪
:*.;".*・;・^;・:\(*^▽^*)/:・;^・;・*.";.*:
by りゅう (2005-10-19 21:53) 

Megurigami

こんばんは!

本日よりなんとかブログも再開しました。ただまた来週から忙しくなるので、どうなることやら。本当はちゃんと毎日、日記を付けたいのですが難しいですね。

そして本日、私も後期のモロー展に行ってきました。ギリシャ神話とキリスト教のモチーフの融合という観点から眺めるとまた新しい感慨があって、良い経験になりました。
by Megurigami (2005-10-23 02:12) 

りゅう

>Megurigamiさん、こんばんは。
再開おめでとうございます♪
最近はなかなか本(専門書を除く)を読む機会がないのですが、私も読書好きです。(ちなみに子供の頃の夢は「本屋さんorパン屋さん」でした!!)
先日リクエストした本(系列の他館からの取り寄せ←※これも専門書です)が入ったということで、日曜日(もう今日ですね!)、図書館に本を取りに行く予定です。
モロー展、とても面白い展覧会でした。神話や宗教にチョットだけ詳しくなった気がします。前期の展示を逃したのは痛いですが・・・(=^_^=) ヘヘヘ
TB&コメントありがとうございました♪
by りゅう (2005-10-23 03:08) 

akamaru

ココは美術な窓!!って感じですね!
by akamaru (2005-10-23 11:30) 

Tak

こんにちは、りゅうさん
金曜日の夜に私も行ってきましたよ。
もう一度。
多分同じ時間帯にいたかと思います!!

TB送らせてもらいました。
でもでも、前期のTBまでまた送ってしまったので
そちらは一つ消しておいてください<m(__)m>ご迷惑おかけします。
by Tak (2005-10-23 13:32) 

りゅう

>あかまるさん、こんばんは。
nice!&コメントありがとうございます。
「美術な窓」だなんて、アハハ(*^-^*)> テレルネ
ようこそ「オキラク美術館日記」へ♪ (=^_^=) ヘヘヘ

>Takさん、こんばんは。
またまた、TB&コメントありがとうございます♪
基本的には同じ展覧会でも、今回のように大規模な展示替えがあると別の展覧会のようでとても新鮮味がありますね。(私は図録で我慢しています・・・(;_ _;) シクシク)Bunkamura&モロー美術館にしてやられたという感じですね(*^▽^*) ニョホホ
by りゅう (2005-10-23 22:56) 

りゅう

>琉那さん、nice!ありがとうございます(^o^)丿
by りゅう (2007-03-26 21:32) 

りゅう

○takagakiさん、nice!ありがとうございます(^o^)丿
by りゅう (2009-09-06 23:39) 

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