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クールベ美術館展 [05展覧会感想]

5月29日の夕方に、三鷹で開催されている「クールベ美術館展-故郷オルナンのクールベ-」に行ってきました。

この展覧会は、写実主義の代表的な画家として位置付けられているギュスターヴ・クールベの作品を、故郷オルナンの生家をそのまま美術館とした「クールベ美術館」のコレクションより、初期から晩年に至る風景画を中心に紹介するもので、1年程かけて国内を巡回するそうです。(東京、新潟、愛知、京都、札幌、帯広、大分)

まず、入口からすぐのところに、関連資料と称して《クールベのデスマスク》。そして、《オルナンの埋葬》を描いたアトリエの壁。いきなりのデスマスクは、かなり生々しかった。それにしても、アトリエの壁(欠片)を展示して何の意味があるのか???絵画を観る前にチョット引いてしまった・・・・

気を取り直して、絵画展示室。《アルジェ太守の囚われ人》はアカデミズムの画家ヴィクトール・シュネツの作品を模写したもので、クールベがオリエンタリスムに踏み入った唯一の作品だそうだ。のちに、「オリエントに向かう者たちには、故国というものがない」と非難を向けるようになったそうなので、この作品も持つ意味は結構深いかも。しかし、作品の解説があるわけでもなく、図録も鑑賞後に購入したため、そのようなことを考えることすらなかった・・・・。それでも、こてこての写実主義を想像していた会場で、この作品は意外な感じがしたので、展示室に入ってすぐのところにもかかわらず、結構見入ってしまった。

代表作の一つとも言われている《オルナンの若い女性の肖像》は、先日のラ・トゥールの影響もあって、光の表現、特に顔の光の当たり方に注目してしまった。(いわゆる、強い光で飛ばすという奴です。)ものすごい技術力、観察力というべきか。それとは対照的に、頭にかぶっているものや服は緻密に描かれている。図録には23歳の時の作品と・・・(⌒○⌒; ポカーン

《ブレーム川の滝》《トゥルーヴィルの黒い岩》は派手さはないものの、力強さが伝わってくる素晴らしい作品でした。《ブレーム~》は動、《トゥルーヴィル~》は静、対照的な作品でしたがとても印象深いものでした。《聖職者会議物語(会議の始まり:争い、または窓外放出:就寝、または司祭館への帰還)》は板に描かれたスケッチのようなものでしたが、それゆえに、画家の技術力の高さが窺える、貴重なもの。木目が絵とうまく合わさって奥深さを出していたので、偶然の産物って、すごい!!と思ったら、板は継ぎ合わせたものだった・・・(木目も作品の一部として計算されていたのかも)

《木のある風景》という紙の作品は、緻密でとてもきれい。通路(のようなところ)に展示されていましたが、個人的には、こういう展示場所も結構好きかも。《追いつめられた鹿》というリトグラフの作品は、「ブリヂストン美術館」《雪の中を駆ける鹿》という作品を連想させるもので、「両者を並べて観たい!」と思いました。ただ、これらの作品は展示場所の都合上、ゆっくりと観ることが出来ないのが残念でした。

《日没》はそれまでの作品とは明らかに色彩が異なるものでした。夕日で赤く燃え上がる空を描いたもので、手前の水面に映るその様子も素晴らしい。印象派好きの私にとっては、「モネ《印象、日の出と、何か通じるものがあるなぁ。」というのが第一印象でした。図録にも、「ジュネーヴに近いレマン湖の、ローヌ川が注ぐ辺りを描いたこの作品は、今まさに生まれようとしている印象派の燃え上がる炎を予示している。」と。そして、今回の展示の目玉であり、クールベの代表作の一つである《シヨン城》は、激しさも派手さもない落ち着いた感じのものですが、ものすごいパワーを秘めているものでした。これだけのために足を運んでも後悔はしないと思えるほど。図録には「クールベが売ることを拒んで終生身近に置いていた。」と。(妙に納得)

《森の中の渓流》等、クールベのアトリエの主席画家として活躍したケルビノ・パタの作品が多数展示されており、また、ジャン=ジャン・コルニュ《田舎の猟師の休息所》アレクサンドル・ラパンエルネスト・ブリゴ等のクールベの弟子と周辺の画家たちとして紹介されている一連の作品は見応えのあるものばかりでした。

共同作品はかなり興味深いものでした。

会場にもパネルで説明がありましたが、図録の解説によると、「・・・アトリエでは、クールベ自身の手だけによるものではなく、出入りした画家たちとの共同制作による作品も数多く生みだされ、クールベのサインが記された。当時、画家として高い名声を確立していたクールベには、たくさんの注文があったため、アトリエではケルビノ・パタマルセル・オルディネールエルネスト・ブリゴジャン=ジャン・コルニュといった画家たちにおおまかな作業をまかせ、最終の仕上げをクールベ自ら行なうという工程で作品が完成された。・・・ここに紹介する作品は、クールベとその周辺の画家たちによる重要な共同作業の成果を示すものである。」そして、共同作品の《シヨン城》は、異彩を放っておりました。先日のラ・トゥール展でもそうでしたが、大量生産が容易な現在とは異なり、当時のビジネスとしては、それが当然のことであり、また、こういった一連の作業によって後継者の育成がなされるのであり、現在の日本の伝統工芸にも通じるものがあると思う。(先日のラ・トゥール展の感想を述べている人の中には、工房の作品を贋作だとか、偽物だとかいって批判している人が結構いるようですが、ラ・トゥールの作品のみではその全貌を図り知ることは出来ないし、また、時代背景というものを全く理解しようとしていないとしか思えてならない。まぁ、純粋にラ・トゥールだけを観たいということなんでしょうけど。)アトリエの共同作品も、当時の時代背景やビジネスのあり方、画家の人柄や影響力というものを知るうえで、とても重要な意味を持つものだと思います。(やっぱり、バックグラウンドって大事だと思う!)

今回の展覧会は、狭い空間に作品を詰め込んだという印象が強かった。また、座るところも最後の展示室のみで、人の入りもそれほど多くは無いにもかかわらず、ゆったりとくつろいで観るという雰囲気ではなかった。スタッフのお姉さんや警備員のオッちゃんの視線が痛く、結構、緊張しました。作品もインパクトの強い(注目度の高い)作品はそれほど多いとはいえず、全体として、地味な印象。作品数77点ということですが、そんなにあったのかなぁというのが正直なところ。なんか、あっという間に観終わってしまった・・・音声ガイドも無く、作品の説明もほとんど無し、会場内に図録サンプルがあるわけでもない。作品そのものをみせる展覧会って感じでした。

もし、最初から図録を購入することを決めているのであれば、図録を購入してから会場に入ったほうがいいかもしれません。(その方が楽しみ方が広がると思います。)それでも、入場料は割引券で640円だし、図録も他の展覧会に比べとてもお得なので、いい展覧会だったと思います。特に、クールベが好きな方や、風景画好きの方にはたまらない展覧会だといえるのではないでしょうか。 

  • 図録:1800円(税込)

HPに割引券があります。

三鷹市芸術文化振興財団(http://mitaka.jpn.org/

図録。サイズ:縦23.5cm×横21cm

(表紙)(カバーもついてます)

【東京展】 三鷹市美術ギャラリー:2005年4月16日~6月5日
【新潟展】 新潟市美術館:2005年6月12日~7月24日
【愛知展】 豊橋市美術博物館:2005年7月30日~8月28日
【京都展】 大丸ミュージアムKYOTO:2005年9月15日~9月27日
【札幌展】 大丸札幌店7階ホール:2005年10月26日~11月7日
【帯広展】 北海道立帯広美術館:2005年11月12日~12月25日
【大分展】 大分市美術館:2006年1月7日~3月21日


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コメント 4

あんまりアートに詳しくないので
そのへんのコメントは出来ないのですが(泣)
興味はあるんです。
機会があれば行ってみたいなと思いますので
またいろいろ紹介してくださいね☆
by (2005-06-08 12:49) 

りゅう

>paserinさん
コメントのみならず、nice!まで頂けるなんて!!
ありがとうございました(^o^)丿
下手くそな文章を長々と恥ずかしい限りです(汗)
(まぁ、下手くそな奴に限って、長くなるんですよね~。(* ̄ー ̄*)ハジカシイ・・)
読みにくい文章で申し訳ないのですが、
少しでもお役に立てるような情報を提供できればと思います。
by りゅう (2005-06-09 00:27) 

とら

はじまして。
クールベ展は私にとっては期待以上でした。☆☆☆☆
おっしゃるように、図録は軽いし、おしゃれだし、説明もくどくなく☆☆☆☆☆の最高級のものだと思いました。
http://cardiacsurgery.hp.infoseek.co.jp
by とら (2005-06-13 03:47) 

りゅう

>とらさん、はじめまして。
ファーブル美術館展(新宿)を観て、(既に終わっていますが)クールベ展がもう一度観たいなぁなんて・・・。どちらの展覧会がということではなく、クールベという画家そのものに今まで以上に強い興味が!!(くやしいけど、図録を見返して我慢してます。質の高い図録で本当によかったです!)

HP拝見させていただきました・・・
おぉ~、なんと、以前訪問したことのあるHPだ~!!!
(o^^;o) オドロイタ・・・
とらさんの素晴らしいHP&鑑賞記録を前にすると、自分の鑑賞記録がとても幼稚で恥ずかしい・・・(= ^ ^ ゞ  フキフキ
コメント、ありがとうございました♪
by りゅう (2005-06-13 21:47) 

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